巡回指導を行ったとき、運送会社もせっかくの機会なので、日頃、疑問に思っていることを指導員に質問しているかと思います。
ですが、他社はどのような質問をしているか気になりますよね?
そこで今回は、元適正化指導員であるカトウさんに運送会社が巡回指導の調査項目以外で主にどのような質問をしていたのかお話していただきました。
1)他社は運転者確保に対応できているのか?
トラック運送会社の求人有効倍率2.05倍(2021年10月)と他の産業よりも人手不測の印象があります。
そうですね。
コロナウィルス感染症拡大になる直前は、どこの運送会社も運転者確保に悲鳴を上げていて、「他社はどのような取り組みを行っているんだ?」と質問を受けることがよくありました。
いまでも運転者確保に苦労している運送会社が多いですよね。どのような回答をしていたのですか?
社長も運転者確保は死活問題なので、他社が行っているアイデアはすでにご存じなことが多いです。
それでも何かヒントがあれば…ということで尋ねてくることが多かったですが…
残念ながら、適正化指導員の知識では、運送会社にほとんど役に立ってなかったです。
それは仕方がないですよね。
適正化指導員は法律に基づいて指導する立場なので、経営についてはわかりませんよね。
はい。
そのかわり、私たちは協会の職員でもありましたので、協会として(運転手不足問題)の取り組みなどをお伝えすることが多かったです。
2)燃料価格の高騰について
燃料価格は高止まりで運送会社の経営に大きな影響を受けています。運送会社から質問を受けることが多いのではないでしょうか?
軽油価格が高騰し始めたとき、お怒りの意見とともに、質問が多かったと先輩から話は聞いたことがあります。
ですが、私は軽油価格が高止まりで”当たり前”になってきた時代に職員でしたので、あまり燃料価格について質問を受けたことはありません。
それは、運送会社側も燃料価格について「協会に期待していない」ということなのでしょうか?
燃料サーチャージの届出を運輸支局にしている運送会社もありますが、荷主から取得できているかといえば、残念ながら上手くいっていません。
燃料価格の負担が重くのしかかる運送会社側としては、協会に実情を国に訴えて欲しいという気持ちがあると思いますが、「協会に訴えても改善される規模の話ではない」と”諦め”ムードになっているのかもしれません。
世界的に燃料価格が高騰しているので、協会や日本だけの努力では「どうしようもない」と感じているのかもしれませんね。
ただ、一般の方に誤解して欲しくないのは、運送会社としては燃料価格の高騰は死活問題なので、強く訴えたいのが本音なんです。
赤字経営が続き、社長自らの収入を割いている会社もあるくらいなので、”強く訴えない=余裕がある”と捉えて欲しくないですね。
巡回指導員は、法令遵守しているか確認をするだけでなく、運送会社の担当者と、直接、顔を合わせるので、その苦しみが痛いほどわかるかと思います。
だからこそ、国も一般消費者も運送会社への理解を深めて欲しいですね。
3)高速道路料金及び高速道路の駐車場所について
高速道路のETC代の問題は、ニュースで私も見たことがありますが、この件については、話題にのぼることはあるのでしょうか?
高速道路料金については、巡回指導の話題にのぼることはほとんどありませんでした。
ただ、高速道路のSA駐車場について意見される方は多かったですね。
SAの駐車場ですか?
私も高速道路をよく利用するのですが、トラックが駐車していて、特に問題ないように思えるのですが…。
SAの駐車スペースが狭かったり、休日、時間帯の状況により、一般の乗用車がトラックの停止場所に駐車することが多いのです。
そのため、トラックは駐車できず、法律で定められている430(連続運転)を守れないことが多いんですよね。
「法律を守れ」と指導されても駐車スペースがないのであれば、運送会社の担当者も納得できないのは当然ですよね。
指導するなら、全日本トラック協会から、トラックが駐車しやすい環境づくりを要望して欲しいとおっしゃる方が多いです。
実際、その要望に応えるように、全日本トラック協会から国に何度もお願いはしているみたいですね。
4)最新の法改正について他社の対応
大きな法律の改正があった場合、たとえば、最近では、改善基準告示などが改正されましたが、自社だけでは、どのように対応していいかわからないと思います。
そのような場合、他社の取り組み等について、質問はないのでしょうか?
おっしゃるとおり、他社の動向・今後の対応方法について質問を受けることはあります。
ですが、正直、適正化指導員は、法律については勉強しますが、現場については詳しくありません。
そのため、ご希望にこたえられないことが多いですね。
問い合わせが多いと思いますが、そのような場合、どのように対応するのでしょうか?
運輸支局も現場については詳しくないので、国は、運送経験があるコンサルタントと契約を結び、相談窓口にしていることが多いです。
トラック運転者の長時間労働改善「特別相談センター」もそのうちのひとつですね。
トラック運送会社の車種、運ぶ品目など会社によってひとつひとつ異なるので、現場を知るプロでなければ対応できませんよね。
5)荷主への不満
私のイメージでは、運送会社と荷主は対等ではないので、巡回指導で関係改善を促す法律の作成や不平不満が出ると思っているのですが…。その点はどうでしょうか?
改善基準告示の違反について指摘した場合、「自助努力では解決できない」と反論されるときがありますが、荷主への不満については、あまり言葉にすることはないですね。
それは、言っても無駄だと感じているからでしょうか?
「無駄」だと感じているのは間違いないでしょう。
ただ、それよりも情報が洩れ、契約を打ち切られることをいちばん恐れているような気がします。
たとえ、匿名でも荷主側もお付き合いのある運送会社は限られています。ある程度の情報からどこの運送会社から告発されたのか予測できる(可能性がある)ので、みな恐れて告発できないのだと思います。
本当に運送会社の立場は弱いですね。
社長の苦労が絶えないのがわかるのですが、適正化指導員として、どのようなお話をされているのでしょうか?
巡回指導では、感情に任せて余計なことを言ってしまうかもしれない…という恐れがあるのですが、書き込みできる国土交通省の目安箱はじっくり言葉を選びながら記載できるので、情報を提供する運送会社が少しずつ増えているようです。
そのため、運送会社には、「目安箱」をおすすめしたりしています。
運送会社の苦しい立場を国は理解していると思いますが、民事に介入しずらいので改善がなかなか進まないですね。
少しでも運送会社の立場が向上すればと私も思います。
まとめ
国への期待が薄くなったのか、要望をお話される運送会社は少なくなっているようです。
また、運送会社の担当者も協会職員としてではなく、適正化指導員として対応しているので、冷静に判断して発言していることも多いとか。
元適正化指導員のカトウさんは、運送会社の代表取締役や担当者は、状況に応じて対応している方ばかりなので、理不尽なことを発言する人が少ないとのことでした。
国も運送会社への支援をもう少し考えてくれたらと思います。
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